私たちの生活に欠かせない「水」は、英語圏の文化においても特別な存在です。川の流れ、波の動き、水の性質——これらは古くから人々の想像力をかき立て、数多くのイディオムを生み出してきました。興味深いことに、水に関する表現の多くは、人間関係、感情、論理性など、抽象的な概念を描写するために使われています。物理的な水の特性が、私たちの心理や社会的な状況をいかに巧みに表現しているか、その言語的な知恵に驚かされます。今回は、ネイティブスピーカーが日常的に使う「水」にまつわる9つのイディオムを紹介します。映画のセリフでも頻出するこれらの表現をマスターすれば、英語でのコミュニケーションがより豊かになるでしょう。
Water under the bridge
意味:過去のこと、忘れられた問題
説明:橋の下を流れ去った水は二度と戻ってこないという比喩から生まれた表現です。過去の口論や問題について「もう済んだこと」として水に流す際に使います。特に関係修復の場面で頻出し、「それはもう過去のことだから気にしないで」というニュアンスを伝えます。似た表現に”let bygones be bygones”がありますが、こちらは意識的に過去を許す意志が強調されるのに対し、”water under the bridge”は時間の経過とともに自然に問題が解決された印象を与えます。
例文:I know we had our differences, but that’s all water under the bridge now.
訳:確かに意見の相違はあったけど、それももう過去のことだ。
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Like water off a duck’s back
意味:全く効かない、影響を受けない
説明:アヒルの羽には油分が含まれているため、水をはじいて背中から滑り落ちます。この自然現象から、批判や非難が全く心に響かない様子を表現します。ポジティブな文脈では「打たれ強い」という意味になりますが、ネガティブな文脈では「反省しない」「学習しない」という批判的なニュアンスにもなります。興味深いのは、この表現が主に他人について使われる点です。自分自身について使うと、やや自慢げに聞こえることがあるので注意が必要です。アメリカ英語では”roll off”と動詞を変えることもあります。
例文:I’ve criticized him for his laziness, but it’s like water off a duck’s back.
訳:彼の怠け癖を非難したけど、全く効いてないみたい。
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Hold water
意味:筋が通る、妥当である
説明:水を保持できる容器は穴が開いていない、つまりしっかりしているという比喩です。論理、理論、言い訳、主張などが矛盾なく成立しているかを評価する際に使います。否定形”doesn’t hold water”で使われることが多く、「その説明には穴がある」という批判的な文脈で頻出します。ビジネスや学術的な議論でよく使われ、カジュアルすぎない表現です。類似表現の”make sense”よりもフォーマルで、論理的整合性に焦点を当てたニュアンスがあります。興味深いことに、17世紀から使われている古い表現です。
例文:His explanation doesn’t hold water.
訳:彼の説明には筋が通っていない。
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Pour cold water on
意味:やる気を失わせる、冷や水を浴びせる
説明:熱い物に冷水をかけると一気に冷めるように、誰かの熱意や情熱を冷ます行為を表します。主に他人のアイデアや計画に対して否定的な意見を述べたり、現実的な問題点を指摘したりする場面で使われます。日本語の「水を差す」に非常に近いニュアンスです。興味深いのは、必ずしも悪意がある場合だけでなく、現実的な助言として使われることもある点です。ただし、受け取る側にとっては士気を下げる行為なので、使用には配慮が必要です。類似表現に”dampen one’s enthusiasm”があります。
例文:I was excited about the new project, but my boss poured cold water on it.
訳:新しいプロジェクトにわくわくしていたけど、上司に冷や水を浴びせられた。
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Test the waters
意味:様子を見る、反応を試す
説明:泳ぐ前に足先で水温を確かめる慎重な行動から生まれた表現です。大きな決断をする前に小規模に試してみたり、相手の反応を探ったりする際に使います。ビジネスでは市場調査や試験的なプロジェクト開始の文脈で、人間関係では相手の興味や意向を探る場面で頻出します。リスクを最小限に抑えながら可能性を探る賢明なアプローチを示唆します。”dip one’s toe in the water”という、さらに慎重なニュアンスのバリエーションもあります。現代では、新しい恋愛関係やキャリアチェンジの文脈でもよく使われています。
例文:I’m testing the waters with a few freelance projects before quitting my job.
訳:仕事を辞める前に、フリーランスのプロジェクトで様子を見ている。
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Blood is thicker than water
意味:血縁は水よりも濃い
説明:家族の絆は友人関係よりも強いという意味で広く使われていますが、実は元の言葉は「契約の血は子宮の水よりも濃い」だったという説があります。これは選んだ仲間(血の契約)の方が生まれた家族よりも重要という、現在とは逆の意味でした。現代では家族を優先すべきという文脈で使われ、特に家族が困難に直面している時に絆の重要性を強調します。ただし、この表現を使う際は、家族関係が複雑な人もいるため、状況を考慮する配慮が必要です。文学や映画で頻繁に登場する古典的な表現です。
例文:She always helps her brother. Blood is thicker than water, after all.
訳:彼女はいつも弟を助ける。やはり血縁は水よりも濃いわね。
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Fish out of water
意味:場違い、居心地が悪い
説明:魚が水から出ると生きていけないように、自分が属さない環境や慣れない状況にいる不快感を表現します。新しい職場、異文化環境、社会的階層の違う集まりなど、様々な場面で使われます。”feel like a fish out of water”という形で自分の感情を表現することが多く、共感を得やすい表現です。この比喩は非常に視覚的で、聞き手に不適応の感覚を即座に伝えられます。映画やドラマでは、主人公が新しい環境に適応する物語の冒頭でよく使われるイディオムです。ユーモラスなニュアンスを含むこともあります。
例文:I felt like a fish out of water at the fancy gala.
訳:その豪華なガラで、私は場違いだった。
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Make waves
意味:波紋を広げる、注目を集める
説明:静かな水面に波を立てるように、現状を揺さぶったり変化をもたらしたりすることを意味します。この表現は文脈によって評価が分かれます。ポジティブな場合は革新的なアイデアや影響力のある行動を指し、ネガティブな場合は不必要に問題を起こす行為を批判します。職場では、新人が既存のやり方に疑問を呈する際によく使われます。”rock the boat”という類似表現がありますが、こちらはより否定的なニュアンスが強く、安定を乱す行為を批判する際に使われます。社会運動や改革の文脈ではポジティブに用いられることが多いです。
例文:His innovative ideas always make waves in the industry.
訳:彼の革新的なアイデアはいつも業界に波紋を広げる。
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Still waters run deep
意味:静かな水は深い、沈黙は深遠なものを含む
説明:表面が穏やかな水ほど深いという自然の観察から、口数が少なく控えめな人ほど実は深い思考や強い感情を持っているという意味になりました。16世紀から使われている古い諺で、外見で人を判断すべきでないという教訓を含んでいます。主に内向的な人を肯定的に評価する際に使われますが、時には「油断できない」という警戒のニュアンスを含むこともあります。性格分析やキャラクター描写でよく登場し、「見た目と中身が違う」というテーマを扱う文学作品で頻繁に引用されます。日本の「能ある鷹は爪を隠す」に近い概念です。
例文:He doesn’t talk much, but still waters run deep.
訳:彼はあまり話さないけど、静かな人ほど深い思考を持っているものだ。
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こんにちは、ゆぶろぐです。
言葉には、辞書には載っていない「空気」があります。 「どんな表情で?」「どんなトーンで?」 そんな英語の「空気」ごと味わえるよう、フレーズと共に映画のワンシーンを紹介しています。あなたの英語学習が、もっとドラマチックなものになりますように。
本名、吉成雄一郎(よしなりゆういちろう)。株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。
